脳神経・脊髄疾患治療部
Neurological Institute

脳神経外科

脳卒中センター

脳血管内治療科

機能脳神経外科/てんかん・パーキンソン病・
難治性疼痛外来

脳神経内科/もの忘れ外来

ボツリヌス療法外来

回復期リハビリテーション病棟

 

 

1982年に当院脳神経外科が設立され、今年で設立40年目にあたります。設立にあたっては当時脳卒中診療のメッカであった秋田県立脳研究センター脳神経外科の故 伊藤善太郎部長のご指導を頂きました。その後、脳卒中センターを創設し、2014年4月1日より脳卒中センター長として鈴木聡(すずきさとし)が赴任しました。2020年4月1日からは脳神経・脊髄疾患治療部として新たなスタートを切りました。

 

2021年4月から脳神経・脊髄疾患治療部に野原聡平医師が新たに加わりました。野原医師は産業医科大学、門司メディカルセンターなどで修練を積んだ神経内科専門医です。認知症、神経難病など神経内科領域を広くカバーすることができるようになりました。脳神経内科のほか、脳神経・脊髄疾患治療部(本部長 鈴木聡)は、脳神経外科(部長 鈴木聡が兼務)、脳卒中センター(センター長 伊藤理 いとうおさむ)、脳血管内治療科(部長 阿部悟朗 あべごろう)、機能脳神経外科、そして回復期リハビリテーション病棟(部長 野田俊郎 のだとしろう)を包括し、医師のみでなく看護師やリハビリテーションスタッフ、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多くのメンバーで構成されています。病院の休日以外は毎日症例検討会を行っており、患者情報を共有し、急性期患者に対する最適の治療法を探します。また、毎週金曜日にはリハビリテーションスタッフが中心となって症例検討会を行い、亜急性期から慢性期患者のゴールをいかに設定するか検討しています。

 

脳神経外科医4人全員が脳神経外科専門医で、そのほか脳神経外科指導医、脳卒中専門医・指導医、脳血管内治療専門医・指導医、血栓回収療法実施認定医、脳卒中の外科技術指導医、定位・機能脳神経外科認定医、髄腔内バクロフェン治療実施医、ボトックス治療認定医、がん治療認定医、日本臨床栄養代謝学会認定医など幅広いサブスペシャリティー資格を所有しています。

 

本部長の鈴木を始め、主要なメンバーは九州大学脳神経外科が主催する九州脳神経外科コンソーシアム(九州大学脳神経外科医局)に所属し、九州大学脳神経外科連携施設(関連病院)として日本脳神経外科学会の研修プログラムに組み込まれています。

 

脳神経・脊髄疾患治療部には内科的治療、直達手術、血管内治療ともに十分な経験を有する医師が勤務しており、良好な治療成績を残してきました。脳動脈瘤に対するコイル塞栓術、開頭動脈瘤ネッククリッピング、頚動脈内膜剥離術、頚動脈ステント留置術、バイパス手術など、脳卒中、脳神経外科で必要な治療を広くカバーすることが出来ます。また、頸椎から胸椎、腰椎、仙椎に至るまで脊髄・脊椎疾患の治療も行っています。「標準的治療の実践」が我々のテーマです。当院脳神経・脊髄疾患治療部の特色としては下記のことが挙げられます。

 

 

➀急性期脳虚血に対する血行再建

2005年にアルテプラーゼ静注療法が日本でも承認され、いまでは多くの施設でこの治療を行うことが出来るようになりました。しかし、このアルテプラーゼ静注療法も万能というわけではありません。比較的細い血管の閉塞に対しては非常に有効ですが、内頸動脈や中大脳動脈起始部など太い血管の閉塞では十分な効果を得ることが出来ません。2014-15年に相次いで発表されたランダム化試験で、発症6時間以内の虚血性脳血管障害ではステント型レトリーバーによる機械的血栓回収療法が有効であることが証明されました。これに伴って従来は頭部CT→アルテプラーゼ静注という流れであったのが、頭部MR/MRA→アルテプラーゼ静注→必要に応じて機械的血栓回収療法追加、という流れに変わってきています。アルテプラーゼ静注療法に比較して機械的血栓回収療法はより専門的なスキルを必要とするため、この一連の治療が可能な施設は福岡市内でも限られています。虚血性脳血管障害が疑われる際には、一刻も早く機械的血栓回収療法が可能な施設へ救急搬送する必要があります。当院では夜間当直帯等の時間外であっても、すぐにMR検査を行うことが出来る体制を整えており、機械的血栓回収療法を行うことが出来る医師が24時間365日体制でスタンバイしています。2019年に当院は日本脳卒中学会より「一次脳卒中センター」の認定を受けました。近々その上位の「血栓回収脳卒中センター」認定申請が始まります。当院は日本脳卒中学会から提示された認定条件をすべて満たしておりますので、募集が始まり次第認定申請を行いたいと思います。今後設定条件が開示されることになっている、日本国内の脳卒中センター最高峰である「包括的脳卒中センター」認定を目指し、内容をさらに充実させてゆきたいと考えています。

 

②脳出血に対するハイビジョン内視鏡を用いた血腫吸収術

オリンパス社製ハイビジョン神経内視鏡を用いた脳神経手術を行っています。従来であれば開頭して血腫除去を行っていましたが、内視鏡を用い、穿頭にて血腫の除去を行うことができます。手術時間が大幅に短縮でき、手術侵襲も劇的に小さくなります。また、日立製のバーホール用エコープローベを導入しました。小さな穿頭部位からでも血腫の位置を確認することができ、より精度の高い手術を行うことができます。もちろん開頭による血腫除去も行っています。

 

③脳卒中・脊髄損傷後遺症に対する痙縮治療

ボツリヌス毒素注入療法を行っています。筋肉を弛緩させる作用があるボツリヌス毒素を、痙縮した筋肉に注射すると、筋肉の痙縮が緩み、日常生活がよりスムーズに行えるようになります。痙縮がより広範囲及ぶ場合はGABAバクロフェンを脳脊髄液腔内に持続的に注入し、痙縮を和らげるITB療法があります。当院でも実施しており、良好な成績を得ています。

 

④脳卒中亜急性期から慢性期にかけてのリハビリテーション

脳卒中は急性期だけでなく、亜急性期、慢性期の治療も重要です。当院はケアミックス型病院で、急性期病棟のほかに回復期リハビリテーション病棟、療養病棟、地域包括ケア病棟を有しており、シームレスなリハビリテーションが可能です。回復期リハビリテーション病棟では野田部長を中心に医師、看護スタッフ、リハビリスタッフ、社会福祉士がチームを組み、診療にあたっています。カンファレンスを定期的に行い、患者さんの目標を設定、修正しながら退院に向けて全力を挙げて取り組んでいます。

 

⑤脊椎・脊髄疾患

鈴木は1995年にオーストリア・グラーツ大学に留学して以来20年以上にわたって脊椎・脊髄疾患の診療に携わっています。頸椎症に対する自家頸骨を用いた前方固定術(Williams’法)、チタンバスケットを用いた椎弓形成術、腰椎椎間板ヘルニアに対する椎間板切除術(Love法)、腰部脊柱管狭窄症に対する片側椎弓切除術のほか、後縦靱帯骨化症、黄色靱帯骨化症の手術や脊髄腫瘍の手術も行っています。

 

⑥ニューロNST

多くの病院でNST(Nutritional Support Team;栄養サポートチーム)を置き、入院患者さんの栄養サポートを行っています。福岡輝栄会病院脳神経・脊髄疾患治療部では、病院のNSTチームとは別個に日本臨床栄養代謝学会認定医である伊藤医師を中心にニューロNSTチームを置き、より細かな栄養サポートを行っています。

 

(2021年5月30日 更新。文責 鈴木聡)

 

神経内視鏡を用いた高血圧性脳出血に対する手術
くも膜下出血に対する脳動脈瘤クリッピング術
脳梗塞急性期におけるステント型血栓回収デバイスを用いた血管内治療
中大脳動脈閉塞に対する浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術
頸椎後縦靭帯骨化症に対するチタンバスケットを用いた椎弓形成術

手術件数の経時的変化

 
術式名 2015 2016 2017 2018 2019 2020
直達手術 脳血管障害 開頭動脈瘤頸部クリッピング 14 15 6 8 2 6
開頭血腫除去 1 4 0 5 3 8
内視鏡的血腫除去 4 6 4 4 4 5
動静脈奇形切除 0 0 0 0 1 0
頸動脈内膜剥離術(CEA) 1 2 4 5 1 5
STA-MCA 5 4 2 3 1 2
小計 25 31 16 25 12 26
腫瘍 開頭腫瘍切除術 8 5 7 6 8 5
内視鏡的生検 0 0 1 0 0 0
定位的腫瘍生検 0 0 0 0 0 1
経鼻的下垂体腫瘍切除 0 0 0 0 0 1
内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍切除 1 0 1 0 0 0
小計 9 5 9 6 8 7
脊椎・脊髄 頸椎頸椎椎弓形成・切除 5 4 3 5 3 3
頸椎前方固定術 0 0 1 2 0 0
胸椎椎弓切除・OYL 0 0 0 2 0 0
腰椎椎間板ヘルニア切除 0 2 0 2 1 0
腰部脊柱管狭窄症に対する椎弓切除 0 2 4 8 5 5
腫瘍 0 0 0 0 2 0
小計 5 8 8 19 11 8
外傷 急性硬膜外血腫 4 2 0 2 1 0
急性硬膜下血腫・脳挫傷 2 2 3 7 2 2
慢性硬膜下血腫 19 26 33 25 22 31
小計 25 30 36 34 25 33
感染 脳膿瘍・硬膜下腫瘍 0 0 0 2 2 2
硬膜外膿瘍 2 1 1 0 1 0
小計 2 1 1 2 3 2
水頭症 シャント 12 20 4 8 15 5
第三脳室底開窓術 0 0 0 0 0 1
脳室外ドレナージ 3 4 2 4 3 4
腰椎ドレナージ 0 2 2 0 1 1
小計 15 26 8 12 19 11
機能脳神経外科 脳刺激電極埋め込み・交換 0 0 1 1 3 0
脳刺激電極抜去 0 0 0 0 0 0
脊髄刺激電極埋め込み 0 0 0 0 0 0
VNS 0 0 1 3 2 0
ITB 0 0 2 2 1 0
小計 0 0 4 6 6 0
脳神経外科直達その他 頭蓋形成術 1 2 2 2 3 5
髄液瘻閉鎖 0 0 0 0 1 0
減圧開頭術 0 0 1 1 4 2
神経血管減圧術 0 0 0 1 0 0
その他 0 0 0 0 2 0
小計 1 2 3 4 10 7
脳神経外科直達以外その他 気管切開術 5 8 0 10 4 5
創傷処置 5 0 5 3 2 1
その他 2 4 0 0 2 1
小計 12 12 5 13 8 7
脳神経外科直達手術合計 82 103 85 108 94 94
うち機能脳神経外科以外 82 103 81 102 88 94
うち機能脳神経外科とその他以外 81 101 78 98 78 87
血管内手術 動脈瘤コイル塞栓術 6 6 3 1 11 8
経皮的頸動脈ステント留置(CAS) 6 7 2 4 10 2
経皮的血行再建術 12 5 3 6 7 8
エリル動注 2 0 0 0 3 0
血管塞栓術(腫瘍・AVM・AVF) 0 2 1 2 7 4
血管内手術合計 26 20 9 13 38 22
手術合計 120 135 99 134 140 123
うち機能脳神経外科以外 108 123 90 115 126 116
うち機能脳神経外科とその他以外 107 121 87 111 116 109

 

広報誌かがやき2014年特集号
エビデンスに基づいた標準的治療の実践
脳神経・脊髄疾患治療部本部長 鈴木 聡 医師

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